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CLASKA ONLINE SHOP 速水真理のブログ

「アップデートする暮らし」第5回:大好きなテレビを、朝は観ないことにした

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朝、テレビを観るのをやめました。

――たったそれだけのこと?、と思われるかも知れませんが、わたしにとっては、暮らしのアップデートどころか人生の一大変化。

なにしろ生来のテレビっ子なのです。朝起きたらまずテレビをつける。外から帰ってきたら、真っ先にテレビをつける。寝ているとき以外、家では常にテレビをつけているのが当たり前の生活で、かれこれ数十年。音楽を聴くとき、テレビの音を消しても画面は消さない始末でした。

そんなわたしなのですが、ある朝、いつものように情報番組を観ながらご飯を食べていました。1年近く前のことでしょうか。人に対して批判や怒号や罵声を浴びせる話題ばかりが立て続いた頃です。なんだか観てるだけでもつらいなぁ、自分が言われてるわけでもないのに凹むなぁ、とダメージを受けていることに気づきました。

ふっ、とテレビを消してみたのです。

すると・・・・・・あれ?、なんて、静かなんだろう。時が止まったみたい。

観る画面を失い、じっ、と手元の朝ご飯を見つめます。

なんてことだろう。これまでいかにテレビに気を取られ、目の前のご飯をろくに見もせず、上の空で食べていたか。愕然としました。

突如として、はっきりと。いま器と箸を手で持っている、という感触。お味噌汁やお米から立ち上る、香り。噛みしめる、歯応え。味わっている、という実感が立ち現れ、より美味しく、しっかり食べた充足を感じられるようになったのです。

天気予報を伝える画面に代わって、窓の外に目を向け本物の天を仰げば、毎朝違う空模様。おおよそ今日の天気もわかりそうな予感です。静けさの中、風に揺れる木々のさざめき、鳥のさえずりなど、自然のささやかな音が耳に心地よく届いてきます。

あぁ、とっても、心穏やか。

思えば自分と関係ない時事に、ずいぶんと心乱されてきたものです。面識のない他人の不倫が許せないと断じる、現実味を欠いた世界から、「他の誰にも邪魔できない、わたし自身の生活」を愛しむリアリティを取り戻しました。世の中で起きている事件や事故を、「知らぬが仏」とはまさにこのこと。我が家は今日も平和だご飯が旨い。

以来、朝起きてから家を出るまでの、およそ2時間。時間自体は変わらないのに、ずいぶんゆったりとした感覚で過ごし、落ち着いて家事や身支度ができています。うっかりテレビに見入ってしまったことで気づいたらバタバタ、ということも起きません。波風のない湖のような心、安定のご機嫌で、悠々と出社できるようになりました。

・・・・・・なんて書くと、テレビはなるべく観ない方が良いと言っているようですが、そんなつもりはありません。あくまでも朝のひとときだけ、観るのをやめてみたという話です。大好きなテレビの名誉にかけて、テレビへの想いも、ここに書いておきたいと思います。

わたしが生まれ育った福岡の実家では、毎日よくテレビを観ていました。起きて朝ご飯を食べに茶の間へ行けば、ワイドショー。学校から帰ってきたら、夕方のアニメ。晩ご飯どきには父が好きなプロ野球か、わたしたち子どもが好きなバラエティや歌番組。あとは寝る直前までニュース番組。気になるドラマや映画もチェック。意識したことも疑ったこともない、それが日常でした。

思い出すのは、中学~高校の頃。わたしと妹は『ダウンタウンのごっつええ感じ』が観たくてしょうがない。父と母は『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の方が面白いと言って譲らない。日曜20時のチャンネル争いは、熾烈を極めました。

争いに敗れ、渋々観る『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』も、しかし面白いのです。中でも、「勉強して東大に入ろうね会」というコーナーに魅かれました。東大を目指す一般の受験生数名に長期間密着し、邪魔してんだか茶化してんだかワチャワチャしながらも、番組を挙げて全力で合格を祈願するというドキュメンタリーです。何より、登場する受験生ひとりひとりがぶっ飛んだ個性的なキャラクターで、大笑いさせられながら、いつの間にかわたしも彼らを応援する気持ちが熱くなり、結果、合格できたことにもできなかったことにも泣いたものでした。

わたしはすっかり、「なるほど“東大”とやら、さては日本全国から、各学校でもトップクラスの面白人間が結集し、しのぎを削る天下一武道会のような場所なのだな!なんて魅力的なんだ・・・」となぜかアニメ『ドラゴンボール』も混ざって大興奮。自分も東大を目指すと宣言したのです。ところが両親は大反対。「(地元の)九大に、実家から通うもんだ」と決めてかかる教育方針への反抗心から、自室に引きこもって猛勉強するようになり、勝手な希望を燃やして東大受験に挑みました。受験会場で試験開始前、両拳を強く握り締めるわたしに試験官の女性が「そんなに緊張しなくて大丈夫よ、リラックス~」と優しく声をかけてくださったのに「いえ今、スーパーサイヤ人に変身するイメージで集中力を高めていたところです」なんて言えず、ぎこちなくはにかむしかなかった恥ずかしさを妙に憶えています。なんやかんやで結果合格。今振り返れば両親の心配や金銭的負担を顧みなかったことを反省もしますが、母は困ったように「おめでとう」と言いながら上京を支援してくれました。父からは「大学がどこかなんて関係ない。お前が何者になるかだ」とだけ言われ、もっともだとしか思えませんでした。テレビ好きな、良い両親の元に生まれてよかった。(*父の近年の自慢は、ドラマ『相棒』を全話録画し所有していることだ。)

大学入学後には、木村拓哉さんが新進気鋭の建築家を演じたドラマ『協奏曲』を観て心をときめかせ、意気揚々と建築学科へ進学。以前から建築や美術方面には興味があったものの、趣味ではなく進路として考える背中を押されました。ちょうど安藤忠雄さんが教授に就任された、記念の年です。安藤先生ご本人のガイドで巡る安藤建築作品ツアーなんて豪華な研修旅行も経験もできました。その道中、ある空間で倉俣史朗さんの名作チェア「ミス・ブランチ」の本物を初めて見た、あの美しさは忘れられません。のちに、インテリアの道へと導いてくれたような気もしています。

ずっとテレビにワクワクし、笑い、泣き、学び、突き動かされ、共に歩んできました。おかげで、テレビ愛を語り合える、無二の親友とも出会えました。最近感動したのは『とんねるずのみなさんのおかげでした』最終回のラスト。これからもわたしは、テレビを楽しみにし続けることでしょう。

朝、テレビを観ないことにしたのは、テレビを嫌いになりたくないからかも知れない。

最後に、オマケの小ネタです。テレビのリモコンは、なるべく埃が付かないように伏せて置く。

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